「親の財産にどれくらい相続税がかかるのか調べたら、思った以上に高かった……」
「基礎控除を超えそうだけど、今からできることはないの?」
こうした不安を感じている方は少なくありません。特にフリーランスや個人事業主の方は、自分自身の事業資産に加えて、親世代の資産承継も気になるテーマですよね。
結論から申し上げます。相続税は、事前の対策次第で合法的にかなり減らすことが可能です。ただし、どの対策にも「早く始めるほど効果が大きい」という共通点があります。
この記事では、相続税を減らすために今からできる7つの方法を、やさしめのトーンで整理していきます。「まず何から手をつければいいのか」がわかるように、難易度別に紹介しますので、自分に合ったものから検討してみてください。
目次
- 1. 生前贈与(暦年贈与)で少しずつ渡す
- 2. 相続時精算課税制度を活用する
- 3. 生命保険の非課税枠を使う
- 4. 小規模宅地等の特例を活用する
- 5. 不動産を活用した評価額の圧縮
- 6. 養子縁組で法定相続人を増やす
- 7. 墓地・仏壇などの非課税財産を生前に購入する
- まとめ:まずは「生前贈与」と「生命保険」から始めるのが現実的
1. 生前贈与(暦年贈与)で少しずつ渡す【難易度:★☆☆】
年間110万円まで非課税で贈与できる
相続税対策の王道と言えるのが、暦年贈与(れきねんぞうよ)です。
贈与税には年間110万円の基礎控除があり、この範囲内であれば贈与税はかかりません。たとえば、親から子へ毎年110万円ずつ贈与すれば、10年間で1,100万円を非課税で移転できます。
具体的なシミュレーション
| 贈与パターン | 年間贈与額 | 贈与税 | 10年間の移転額 |
|---|---|---|---|
| 子1人に110万円ずつ | 110万円 | 0円 | 1,100万円 |
| 子2人に110万円ずつ | 220万円 | 0円 | 2,200万円 |
| 子・孫あわせて4人に110万円ずつ | 440万円 | 0円 | 4,400万円 |
受け取る人数が多いほど効果は大きくなります。子だけでなく、孫や子の配偶者に贈与することで、さらに多くの資産を非課税で移転できます。
注意点:「名義預金」と「定期贈与」に要注意
ただし、暦年贈与にはいくつか注意点があります。
- 名義預金とみなされるリスク:子名義の口座に振り込んでも、子がその存在を知らなかったり、通帳・印鑑を親が管理していると「実質的には親の財産」と判定されることがあります
- 定期贈与とみなされるリスク:毎年同じ金額を同じ時期に贈与し続けると、「最初から合計額を贈与する約束だった」とみなされ、一括で贈与税が課される可能性があります
- 相続開始前7年以内の贈与は相続財産に加算:2024年1月以降の贈与から、相続開始前7年以内の暦年贈与は相続財産に持ち戻されます(以前は3年でした)。早めに始めることが重要です
対策としては、贈与契約書を毎年作成する、贈与額や時期を毎年少しずつ変える、受け取った側が自由に使える状態にしておくことが大切です。
2. 相続時精算課税制度を活用する【難易度:★★☆】
累計2,500万円まで贈与税がかからない制度
相続時精算課税制度とは、60歳以上の親・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与について、累計2,500万円までは贈与税がかからない制度です。
「え、2,500万円も非課税なの?」と思うかもしれませんが、ここに注意が必要です。この制度で贈与した財産は、相続が発生したときに相続財産に加算されます。つまり、贈与税はかからないけれど、相続税の計算には含まれるということです。
2024年以降の改正で「年110万円の基礎控除」が追加
ただし、2024年1月以降の贈与から、相続時精算課税制度にも年間110万円の基礎控除が新設されました。この110万円分は相続財産に加算されません。
つまり、相続時精算課税制度を選択した上で、毎年110万円以内の贈与を続ければ、暦年贈与と同様に非課税で資産を移転できます。しかも、暦年贈与の「7年持ち戻し」の対象にもなりません。
どちらを選ぶべき?暦年贈与との比較
| 項目 | 暦年贈与 | 相続時精算課税制度 |
|---|---|---|
| 非課税枠 | 年110万円 | 累計2,500万円+年110万円 |
| 相続財産への加算 | 相続前7年以内の贈与が対象 | 110万円を超えた分が対象 |
| 申告の手間 | 110万円以下なら不要 | 毎年申告が必要 |
| 撤回 | いつでも暦年贈与に戻れる | 一度選ぶと暦年贈与に戻れない |
| 向いている人 | 長期間かけて少額ずつ渡したい人 | まとまった額を早めに渡したい人 |
どちらが有利かは、贈与する金額・期間・相続までの年数によって変わります。迷ったら税理士に相談するのが確実です。
3. 生命保険の非課税枠を使う【難易度:★☆☆】
「500万円 × 法定相続人の数」が非課税になる
意外と見落とされがちなのが、生命保険の非課税枠です。
被相続人(亡くなった方)が契約者・被保険者で、相続人が受取人となっている生命保険の死亡保険金には、「500万円 × 法定相続人の数」の非課税枠があります。
| 法定相続人の数 | 非課税枠 |
|---|---|
| 1人 | 500万円 |
| 2人 | 1,000万円 |
| 3人 | 1,500万円 |
| 4人 | 2,000万円 |
たとえば、法定相続人が妻と子2人の計3人であれば、1,500万円まで非課税で受け取れます。現金をそのまま相続すると全額課税対象ですが、生命保険に変えておくだけでこの枠が使えるのです。
一時払い終身保険が使いやすい
高齢の親でも加入しやすいのが一時払い終身保険です。まとまった保険料を一括で支払い、亡くなったときに死亡保険金が支払われます。
- 80代でも加入できる商品がある
- 健康診断が不要な場合が多い
- 支払った保険料とほぼ同額(またはそれ以上)の死亡保険金が受け取れる
「預金を生命保険に置き換えるだけ」で非課税枠が使えるため、最も手軽な相続税対策のひとつと言えます。
4. 小規模宅地等の特例を活用する【難易度:★★☆】
自宅の土地の評価額を最大80%減額できる
自宅を所有している場合にぜひ知っておきたいのが、小規模宅地等の特例です。
この特例を使うと、被相続人が住んでいた自宅の土地について、330㎡(約100坪)までの部分の評価額を80%減額できます。
どれくらい効果があるのか
たとえば、相続税の評価額が5,000万円の土地があった場合:
- 特例なし:5,000万円がそのまま課税対象
- 特例あり:5,000万円 × 20% = 1,000万円が課税対象
差額は4,000万円です。相続税率が15%だとすると、約600万円の節税効果になります。
適用を受けるための主な要件
ただし、この特例には厳格な要件があります。
- 配偶者が相続する場合:無条件で適用可能
- 同居の親族が相続する場合:相続税の申告期限まで住み続け、保有し続けること
- 別居の親族が相続する場合(家なき子特例):相続開始前3年以内に自分または配偶者の持ち家に住んでいないこと、など複数の要件あり
フリーランスの方で、自宅を仕事場としても使っている場合は、事業用部分にも50%〜80%の減額が適用される可能性があります(特定事業用宅地等の特例)。事前に税理士に確認しておくと安心です。
5. 不動産を活用した評価額の圧縮【難易度:★★★】
現金より不動産のほうが相続税評価額は低くなる
相続税は、財産の「時価」ではなく「相続税評価額」で計算されます。そして、不動産の相続税評価額は、時価(実勢価格)よりもかなり低くなるのが一般的です。
| 財産の種類 | 評価方法 | 時価との目安 |
|---|---|---|
| 現金・預金 | 額面どおり | 100% |
| 土地(更地) | 路線価方式など | 時価の約80% |
| 建物 | 固定資産税評価額 | 時価の約50〜70% |
| 賃貸不動産 | 借地権・借家権割合で減額 | 時価の約40〜60% |
たとえば、1億円の現金を持っていれば相続税評価額は1億円ですが、1億円で賃貸マンションを購入すると、評価額が4,000万〜6,000万円程度になるケースがあります。
注意点:「節税目的だけ」の不動産購入はリスクがある
ただし、2022年の最高裁判決(いわゆる「マンション節税」訴訟)により、相続税の節税だけを目的とした不動産購入は否認されるリスクが高まっています。
- 相続直前に高額な不動産を購入し、相続後すぐに売却する
- 借入金で不動産を購入し、借入金の分だけ課税財産を圧縮する
このようなケースでは、税務署が路線価ではなく時価で再評価する可能性があります。不動産を活用した対策は、長期的な視点で、実需に基づいて行うことが大切です。
6. 養子縁組で法定相続人を増やす【難易度:★★★】
法定相続人が増えると基礎控除額が増える
相続税の基礎控除は「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」で計算されます。つまり、法定相続人が1人増えるごとに基礎控除が600万円増えます。
養子縁組で孫を養子にすると、法定相続人の数が増え、以下のメリットがあります。
- 基礎控除が600万円増加
- 生命保険の非課税枠が500万円増加
- 死亡退職金の非課税枠が500万円増加
たとえば、法定相続人が2人から3人になると、基礎控除は4,200万円から4,800万円に増えます。生命保険の非課税枠もあわせると、合計1,100万円分の節税効果が見込めます。
養子の人数には制限がある
ただし、相続税の計算上、養子として数えられる人数には制限があります。
- 実子がいる場合:養子は1人まで
- 実子がいない場合:養子は2人まで
また、養子縁組が相続税の節税だけを目的としていると税務署に判断されると、法定相続人として認めてもらえないことがあります。家族関係にも影響する重要な決断ですので、慎重に検討してください。
7. 墓地・仏壇などの非課税財産を生前に購入する【難易度:★☆☆】
祭祀財産は相続税の対象外
意外と知られていないのが、墓地・墓石・仏壇・仏具は相続税の非課税財産であるという点です。
これらは「祭祀財産(さいしざいさん)」と呼ばれ、相続税法上、課税対象から除外されています。
ポイントは、これらを「生前に」購入しておくことです。
- 生前に購入 → 現金(課税財産)が非課税財産に変わるため、相続財産が減少
- 死後に購入 → 現金はそのまま課税対象。購入費用は相続税の債務控除にもならない
墓石や仏壇は数十万円〜数百万円するものもありますので、生前に購入しておくだけで、その分だけ課税財産を減らすことができます。
注意点
ただし、ローンで購入して未払い分がある場合、その未払い分は債務控除の対象にはなりません。購入する場合は、現金一括で支払うのが基本です。また、投資目的の純金製仏具など、日常的に使用しないものは非課税が認められない場合があります。
まとめ:まずは「生前贈与」と「生命保険」から始めるのが現実的
相続税を減らすための7つの対策を紹介しました。改めて、難易度別に整理します。
| 難易度 | 対策 | ポイント |
|---|---|---|
| ★☆☆ | 生前贈与(暦年贈与) | 年110万円ずつ、早めに始めるほど効果大 |
| ★☆☆ | 生命保険の非課税枠 | 500万円×法定相続人数。預金を保険に変えるだけ |
| ★☆☆ | 墓地・仏壇の生前購入 | 非課税財産に変える。現金一括で購入 |
| ★★☆ | 相続時精算課税制度 | 年110万円の基礎控除が2024年から追加 |
| ★★☆ | 小規模宅地等の特例 | 自宅の土地を最大80%減額。要件の確認が重要 |
| ★★★ | 不動産の活用 | 評価額の圧縮効果大。ただし節税目的だけはリスク |
| ★★★ | 養子縁組 | 基礎控除+保険非課税枠が増加。家族の合意が必須 |
今日からできるアクションプラン
- 親の財産の全体像を把握する:預金・不動産・保険・有価証券の概算額を確認
- 基礎控除額を計算する:「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人数」で課税されるかどうかを確認
- 手軽な対策から着手する:生前贈与の開始、生命保険の加入検討
- 税理士に相談する:財産額が大きい場合や、不動産・養子縁組を検討する場合は専門家の力を借りる
相続税の対策は、「まだ先の話だから」と後回しにするほど選択肢が減っていきます。特に生前贈与は、早く始めるほど効果が大きくなる仕組みです。
すべてを一度にやる必要はありません。まずは親と「お金の話」をするきっかけを作り、自分のペースで、少しずつ準備を進めていきましょう。
