親の介護と仕事の両立|介護費用の経費処理・医療費控除・使える制度
「親の介護が始まったら、フリーランスの仕事はどうなるの?」「介護にかかったお金は経費にできる?」「医療費控除や介護保険の仕組みがよくわからない……」――親の介護は、いつ始まるか予測できないにもかかわらず、お金と時間の両面で大きな負担がかかります。
結論から言うと、介護費用そのものは事業経費にはなりませんが、医療費控除や介護保険制度を正しく使えば、年間数十万円の負担軽減が可能です。さらにフリーランスは時間の融通が利く分、会社員より介護との両立がしやすい面もあります。
この記事では、親の介護にかかるお金の全体像から、確定申告で使える控除、公的制度の活用方法、仕事との両立の工夫まで、やさしめのトーンで整理していきます。
親の介護にはいくらかかる?費用の全体像を把握する
1. 介護費用の平均額
生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査(2024年度)」によると、介護にかかる費用の平均は以下のとおりです。
| 項目 | 平均額 | 内容 |
|---|---|---|
| 一時的な費用 | 約50〜100万円 | 住宅改修、介護ベッド購入、施設入居の初期費用など |
| 月々の費用 | 約9万円 | 介護サービス利用料、おむつ代、通院の交通費など |
| 介護期間 | 約5年 | 個人差が非常に大きい(10年以上のケースも約15%) |
※一時費用の調査平均は約47万円ですが、住宅のバリアフリー改修を行う場合は100万円を超えるケースもあり、個人差が非常に大きい項目です。備えとしては50〜100万円を見込んでおくと安心です。月額費用は在宅介護で平均約5万円、施設介護で平均約14万円と、介護の場所によっても大きく変わります。介護期間は調査平均が4年7ヶ月ですが、4年以上介護が続くケースが全体の約4割を占めています。
これらを踏まえて試算すると、一時費用50〜100万円+月9万円×60ヶ月=約590〜640万円が、余裕を持った介護費用の目安になります。ただしこれはあくまで目安で、要介護度や利用するサービスによって大きく変わります。
2. 介護費用は「誰が」負担する?
大前提として、介護費用はまず親自身の年金・貯蓄から出すのが基本です。子どもが全額負担する必要はありません。
親の資金で足りない部分を子どもが補助するケースが多いですが、その前に以下を確認してください。
- 親の年金額:厚生年金の受給者なら月14〜20万円程度。介護サービスの自己負担分はカバーできることが多い
- 親の貯蓄額:一時的な費用(住宅改修など)に使えるか
- 親の保険:民間の介護保険に加入していれば給付金が出る可能性がある
親の資産状況が不明な場合は、介護が始まる前に一度話し合っておくことを強くおすすめします。当サイトの「親の金融資産の調べ方|ほふり開示請求・名寄せ・エンディングノート活用」の記事も参考にしてください。
介護費用は経費にできる?フリーランスの確定申告での扱い
1. 親の介護費用は事業経費にならない
結論から言うと、親の介護にかかった費用(介護サービス利用料、おむつ代、施設入居費など)は事業経費にはなりません。これは個人的な支出であり、事業との関連性がないためです。
ただし、確定申告を通じて税負担を軽減する方法はあります。それが「医療費控除」と「扶養控除」です。
2. 医療費控除で取り戻せる金額
介護関連の費用のうち、一定の条件を満たすものは医療費控除の対象になります。
医療費控除の計算式は以下のとおりです。
(年間の医療費合計 − 保険金等で補填された額) − 10万円(※)= 医療費控除額
※総所得金額が200万円未満の場合は「総所得金額×5%」
たとえば、年間の医療費(介護費用含む)が50万円、保険金での補填が5万円の場合:
(50万円 − 5万円) − 10万円 = 35万円(医療費控除額)
所得税率20%の人であれば、35万円 × 20% = 7万円の所得税が戻ってくる計算です。住民税も合わせると約10万円の負担軽減になります。
3. 医療費控除の対象になる介護費用・ならない費用
ここが最も間違えやすいポイントです。介護サービスの種類によって、医療費控除の対象になるもの・ならないものが分かれます。
| サービスの種類 | 医療費控除 | 備考 |
|---|---|---|
| 訪問看護 | ○ | 看護師による医療行為を含むサービス |
| 訪問リハビリテーション | ○ | 理学療法士等によるリハビリ |
| 通所リハビリ(デイケア) | ○ | 医療系サービス |
| 短期入所療養介護(医療系ショートステイ) | ○ | 医療機関での短期入所 |
| 介護老人保健施設(老健) | ○ | 施設サービス費の自己負担分 |
| 介護医療院 | ○ | 施設サービス費の自己負担分 |
| 訪問介護(生活援助中心型を除く) | △ | 医療系サービスと併せて利用する場合のみ対象 |
| 通所介護(デイサービス) | △ | 医療系サービスと併せて利用する場合のみ対象 |
| 訪問介護(生活援助中心型) | × | 掃除・洗濯・買い物等の生活援助のみは対象外 |
| 福祉用具のレンタル・購入 | × | 車椅子、介護ベッドなどは対象外 |
| 住宅改修(バリアフリー工事) | × | 手すり設置、段差解消なども対象外 |
| おむつ代 | △ | 医師の「おむつ使用証明書」があれば対象 |
判断基準は「医療系のサービスかどうか」です。看護やリハビリなど医療行為を含むサービスは対象、生活援助や福祉用具は対象外と覚えておくとわかりやすいです。
なお、おむつ代は医師の証明書があれば医療費控除の対象になります。おむつ代は年間で10万円以上かかることもあるため、かかりつけ医に「おむつ使用証明書」の発行を依頼してください。2年目以降は市区町村の介護保険担当が発行する「確認書」で代替できます。
4. 親を扶養に入れると控除額が大きい
親の年間所得が48万円以下(年金収入のみの場合は65歳以上で年金158万円以下)であれば、扶養控除の対象になります。
| 区分 | 所得税の控除額 | 住民税の控除額 |
|---|---|---|
| 70歳未満の親(一般の扶養親族) | 38万円 | 33万円 |
| 70歳以上の親・同居(同居老親等) | 58万円 | 45万円 |
| 70歳以上の親・別居(老人扶養親族) | 48万円 | 38万円 |
70歳以上の親と同居している場合は58万円の控除が受けられます。所得税率20%の人であれば、58万円 × 20% = 11.6万円の節税です。
別居であっても、「生計を一にしている」(仕送りをしているなど)と認められれば扶養控除は使えます。毎月の仕送りの記録(銀行振込の明細など)を残しておきましょう。
介護保険制度の基本|自己負担を抑える仕組み
1. 介護保険の自己負担割合
介護保険サービスの利用者負担は、所得に応じて1割・2割・3割のいずれかです。
| 本人の合計所得金額 | 自己負担割合 |
|---|---|
| 160万円未満 | 1割 |
| 160万円以上220万円未満 | 2割 |
| 220万円以上 | 3割 |
※65歳以上の場合。単身世帯の基準。世帯構成や年金収入額によって変わるため、正確な割合は介護保険証で確認してください。
多くの高齢者は1割負担に該当します。たとえば要介護3で月の介護保険サービスが27万円分であれば、自己負担は約2.7万円です。
2. 高額介護サービス費|月の自己負担に上限がある
介護保険の自己負担額が一定の上限を超えた場合、超過分が「高額介護サービス費」として払い戻される制度があります。
| 所得区分 | 月の自己負担上限額 |
|---|---|
| 生活保護受給者 | 15,000円 |
| 住民税非課税世帯(年金80万円以下等) | 15,000円(個人)/ 24,600円(世帯) |
| 住民税非課税世帯(上記以外) | 24,600円 |
| 一般的な住民税課税世帯 | 44,400円 |
| 現役並み所得者(課税所得145万円以上) | 44,400〜140,100円 |
一般的な世帯であれば、月44,400円が自己負担の上限です。これを超えた分は申請すれば戻ってきます。初回の申請は自治体から通知が届くことが多いですが、届かない場合は自分で市区町村の窓口に申請してください。
3. 高額医療・高額介護合算制度
医療費と介護費の自己負担を年間で合算して、一定の上限を超えた場合に払い戻される制度です。
たとえば、親の年間の医療費自己負担が30万円、介護費自己負担が40万円の場合、合計70万円です。所得区分が「一般」であれば上限は56万円なので、70万円 − 56万円 = 14万円が戻ってくる計算です。
この制度は申請しないと支給されません。毎年8月〜翌7月が計算期間で、翌年に通知が届くケースと届かないケースがあります。心当たりがある場合は自治体の窓口に問い合わせてください。
介護が始まる前に知っておくべき公的制度
1. 要介護認定の流れ
介護保険サービスを使うには、まず要介護認定を受ける必要があります。
- 申請:市区町村の介護保険担当窓口に申請(本人または家族が申請可)
- 訪問調査:認定調査員が自宅を訪問し、心身の状態を調査(約1時間)
- 主治医意見書:かかりつけ医が意見書を作成
- 審査・判定:介護認定審査会で要介護度を判定
- 結果通知:申請から約30日で結果が届く
判定結果は「非該当」「要支援1〜2」「要介護1〜5」の8段階です。要介護度に応じて利用できるサービスの量(支給限度額)が決まります。
申請は早めにしておくのが鉄則です。「まだ大丈夫」と思っている段階でも、転倒や入院をきっかけに急に介護が必要になることがあります。申請しても費用はかかりませんし、結果に不満があれば区分変更の申請もできます。
2. 介護休業給付金はフリーランスに使えない
会社員には「介護休業給付金」(休業前賃金の67%を最大93日分支給)がありますが、これは雇用保険の制度であり、フリーランスは利用できません。
フリーランスには介護による収入減を補償する公的制度がほぼないため、自分で備える必要があります。具体的な方法は後述します。
3. 地域包括支援センターに相談する
介護について何から始めればいいかわからない場合は、地域包括支援センターに相談してください。各市区町村に設置されている無料の相談窓口で、以下のことを支援してくれます。
- 要介護認定の申請サポート
- 介護サービスの紹介・ケアプランの作成
- 介護予防プログラムの案内
- 虐待や権利擁護に関する相談
「親の住所地」の地域包括支援センターが担当になります。遠距離介護の場合は、自分の住所地ではなく親が住んでいる地域のセンターに連絡してください。
フリーランスが介護と仕事を両立するための工夫
1. 時間の使い方を「介護シフト」に切り替える
フリーランスの最大の強みは、自分でスケジュールを組めることです。会社員のように「介護休業を取るか退職するか」の二択を迫られることはありません。
介護が始まったら、以下のように時間配分を見直しましょう。
| 時間帯 | 介護前 | 介護シフト後 |
|---|---|---|
| 午前(9:00〜12:00) | 集中ワーク | 集中ワーク(ここは死守) |
| 午後(13:00〜17:00) | 打ち合わせ・作業 | 介護対応(通院付き添い・ケアマネ面談など) |
| 夜(21:00〜23:00) | 自由時間 | 事務作業・翌日の準備 |
ポイントは午前中の集中ワーク時間を死守することです。通院の付き添いやケアマネとの面談は午後にまとめ、クライアントワークは午前中に集中して片付けるリズムを作ります。
2. 稼働率を下げても収入を維持する方法
介護が始まると、どうしても仕事に使える時間が減ります。稼働時間が3〜4割減っても収入を大きく落とさないために、以下の対策が有効です。
- 単価を上げる交渉をする:時間が減る分、時間単価を上げて収入を維持する。長年の取引先であれば「事情により稼働時間が減るため、単価の見直しをお願いしたい」と正直に伝える
- 低単価の案件を整理する:時間対効果の低い案件を終了し、高単価の案件に集中する
- ストック型収入を育てる:ブログ・教材販売・サブスク型サービスなど、稼働時間に比例しない収入源を作る
- 外注を活用する:自分でなくてもできる作業(データ入力、デザインの一部など)は外注して時間を確保する
3. 遠距離介護の場合のお金の工夫
親が遠方に住んでいる場合、交通費が大きな負担になります。
- 航空会社の介護割引:ANAやJALには「介護帰省割引」があり、通常運賃から約30〜40%割引になる
- 交通費の記録を残す:親を扶養に入れている場合、通院の付き添いにかかる交通費は医療費控除の対象になるケースがある(公共交通機関の利用が条件)
- 見守りサービスの活用:毎回帰省するのではなく、見守りカメラや自治体の安否確認サービスを利用して帰省頻度を最適化する
4. 介護費用の立替と精算のルール
兄弟姉妹がいる場合、介護費用の負担割合でトラブルになることがあります。以下のルールを事前に決めておくと安心です。
- 費用の記録を共有する:Googleスプレッドシートなどで介護費用を記録し、兄弟姉妹で共有する
- 負担割合を明文化する:「均等割り」「収入に応じた按分」などの基準を事前に合意する
- 「お金を出す人」と「時間を出す人」のバランス:近くに住む兄弟が時間を使い、遠方の兄弟がお金を多く出すなど、役割分担を決める
介護に備えて今からできる3つの準備
1. 親の介護保険証と資産状況を把握する
介護が始まってからバタバタしないために、元気なうちに以下を確認しておきましょう。
- 介護保険の被保険者証の保管場所
- かかりつけ医の連絡先
- 年金額と金融資産の概要
- 加入している保険(生命保険・介護保険・医療保険)
- 親の意向(自宅で過ごしたいか、施設に入りたいかなど)
2. 生活防衛資金を厚めに確保する
フリーランスの場合、通常でも生活費6ヶ月分の防衛資金が必要ですが、親の介護リスクがある場合はできれば1年分を目指してください。介護が始まった直後は仕事のペースが大きく乱れるため、その間の生活を支える資金が必要です。
3. 民間の介護保険を検討する
フリーランスには介護休業給付金がないため、自分自身が介護状態になったときの備えも考えておく必要があります。民間の介護保険は月2,000〜5,000円程度の保険料で、要介護2以上になった場合に一時金や年金が支給されるタイプが主流です。
ただし、すでに十分な貯蓄がある場合は無理に加入する必要はありません。保険は「貯蓄で備えきれないリスク」に対して掛けるものです。
まとめ:介護は「情報戦」。使える制度を知っているかどうかで負担が変わる
親の介護と仕事の両立で押さえるべきポイントを振り返ります。
- 介護費用の目安:一時費用50〜100万円+月約9万円×約5年で総額600万円前後。まず親の年金・貯蓄から出すのが基本
- 経費処理:介護費用は事業経費にならない。ただし医療費控除と扶養控除で税負担を軽減できる
- 医療費控除:医療系の介護サービス(訪問看護・デイケアなど)は対象。おむつ代も医師の証明書があればOK
- 扶養控除:70歳以上の親と同居なら58万円の控除。別居でも仕送りしていれば対象になる可能性あり
- 高額介護サービス費:月の自己負担に上限あり。超えた分は申請すれば戻る
- 仕事との両立:午前の集中ワーク時間を死守。単価を上げて稼働時間の減少をカバーする
- 今からの準備:親の資産状況の把握、生活防衛資金の積み増し、地域包括支援センターの所在確認
介護は突然始まることが多く、準備不足のまま対応に追われると、仕事も家計も大きなダメージを受けます。逆に、制度を知っていて事前に段取りしておけば、フリーランスの時間の柔軟性を活かして無理なく乗り越えられるケースも多いです。
まずは親の住所地の地域包括支援センターの連絡先を調べておくところから、始めてみてください。
